最近、弊社が「貸主代理」として運営しているマンションの一室で、80代の入居者の方が孤独死されるという出来事がありました。
孤独死はニュースで耳にすることはあっても、実際に自分の物件で起こると、想像以上に手続きが煩雑で、精神的にも金銭的にも負担が大きい問題です。
特に、「現場対応 → 行政手続き → 特殊清掃 → 原状回復 → 再募集」という一連の流れは、経験がないと分からない部分が多く、判断を誤ると余計な費用がかさんだり、次の入居付けが極端に難しくなるケースもあります。
今回は、実際の事例をもとに、孤独死が起きたときにオーナーが直面する現実と、収益への影響、そして事前に取れる対策について、実務者としての視点で詳しく解説します。
賃貸経営においては避けられないリスクですので、ぜひ参考にしてください。
今回の孤独死の経緯と現場で起きたこと
近隣住民からの通報で発覚 ―「早期発見」の重要性
今回のケースは、近所に住む方が「最近姿を見ていない」と管理会社に連絡したことで発覚しました。もともと入居者が高齢だったことに加え、何やら少し変な臭いもする、ということで管理会社に一報を入れたとのことです。
孤独死の多くは、このような周囲からの違和感の指摘で見つかることがほとんどです。管理会社が駆けつけた際には、すでに室内から異臭がしており、ただちに警察へ通報です。もし通報がもっと遅れていたら、腐敗がさらに進行し、特殊清掃費用が倍以上に増えるケースも珍しくありません。
早期発見がいかに重要か、改めて感じさせられた事例でした。
警察による状況確認と「事件性」の検証
警察官が最初に現場を確認し、室内で倒れている入居者を発見。
その後、亡くなっていることが確認されると、「事件性があるかどうか」 を判断するために刑事が現地に入りました。
これは孤独死では一般的な流れで、事件性がないと判断されてはじめて、室内の引き渡し手続きや遺族対応に進むことができます。
なお、警察が現場を使用するため、一定時間室内は封鎖されます。刑事が現場を検証し、「事件性がない」と判断されると、管理会社の室内入室や、工事の見積もりなどが可能になります。
特別清掃が必須になるケースがほとんど
孤独死では、一般的なハウスクリーニングでは対応できず、特殊清掃(体液・腐敗臭の除去、オゾン脱臭など)が必要になる場合がほとんどです。
今回の事案では、保証会社からは「10万円を限度」に原状回復費用が支払われましたが、実際の特殊清掃費用は 20〜40万円以上 になることも多く、床材の張り替え・下地補修が必要になると50万円以上 に達することもあります。
特に、発見が遅れれば遅れるほど臭気は床下へ染み込み、「フローリング撤去 → 下地の木材交換 → 壁紙全面張り替え」と工事範囲が広がり、そうすると費用も跳ね上がります。
今回も、結果的にオーナー様の自己負担が大きくなる結果となりました。
孤独死が賃貸経営に与える具体的な影響
家賃は相場の5割程度まで下がることもある
孤独死が起きた部屋は「心理的瑕疵あり」として扱われるため、募集時の家賃は 相場の7〜8割から始めても、実際に成約するのは5割前後になることが多いです。特に高齢者の孤独死は入居者側も敏感で「長期間放置されていた部屋」など、心理的な抵抗が大きくなる傾向があります。
このため、一度孤独死が発生すると、短くても数年間は収益に影響が残るというのが実務上の現実です。
高齢者の入居では、事前確認の項目を増やす
今後さらに増えていくと考えられるのが単身高齢者の入居です。
高齢者を受け入れる際には、
・緊急連絡先が複数確保できるか
・保証会社の利用有無
・既往歴や現在の健康状態
・身寄りがあるかどうか
など、実務上の確認項目がおのずと増えます。
また、「見守りサービスとのセット入居」を必須化する会社も増えてきています。
オーナーとしては、これらを“拒絶”の理由にするのではなく、「受け入れるならリスクヘッジを同時に行う」という姿勢が重要になってきています。
補償内容は保証会社によって大きく異なる
孤独死対応の補償範囲は保証会社によって本当にバラバラで、
・10万円まで
・30万円まで
・原状回復+家賃保証あり
・特殊清掃専用の保険をセット化
など、内容は千差万別です。
今回のように「10万円だけ」というケースは意外と多く、オーナーが実費を負担せざるを得ない状況が日常的に発生しています。物件のターゲット層が高齢者中心の場合は、保証内容の手厚い会社を選ぶことが「収益と資産を守る」ことにつながります。
孤独死リスクを減らすためにオーナーができる「現実的な対策」
見守りサービスは「コスト」ではなく「保険」
近年は、
・人感センサー
・ドアの開閉チェック
・一定時間反応なしで通知
など、月額数百円〜数千円で導入できる見守りサービスが増えています。
オーナー側からすると「余計なコスト」に見えるかもしれませんが、孤独死が起きた場合の損失(原状回復+空室期間+家賃下落)を考えると、最も費用対効果の高い“投資” になります。
高齢者向けの保証は必須
特にリスクの高い入居者には、
- 特殊清掃補償付き保証
- 孤独死保険
- 緊急対応サービス
など、オプションを組み合わせておくことが重要です。
孤独死の補償範囲を「わざわざ確認しない」オーナーも多いですが、この部分は賃貸経営の収益を直接守るポイントです。
早期発見につながる「近隣との関係性」も大事
孤独死の多くは近隣住民の通報によって発見されます。日頃から管理会社が物件周辺と良好な関係を築いていると、「最近姿を見ない」などの情報を早めにキャッチでき、結果として原状回復費用を抑えることにつながります。オーナーが現場に行けない分、つまり「現地の目」を増やす仕組み は大切です。
まとめ
今回の事例から分かるポイントは以下の通りです。
- 孤独死が発生すると、特殊清掃・原状回復・家賃下落など、収益への影響が大きい。
- 発見の遅れは費用増加に直結するため、見守りサービスや近隣との連携が重要。
- 高齢者の入居では、保証会社の補償範囲や健康状態の確認が必須。
- 予防策(見守り・手厚い保証)は“コスト”ではなく、賃貸経営を守るための投資。
孤独死は決して珍しいものではなく、これからの賃貸経営では普通に起こり得るリスクです。だからこそ、オーナーが正しい知識と対策を持つことで、損失を最小限に抑えることができます。「うちの物件は大丈夫だろうか?」と思われたオーナー様は、一度管理会社や専門家に相談し、現状の体制を見直してみてください。
株式会社 髙野不動産コンサルティング 代表取締役 / 不動産会社にて600件以上の仲介、6,000戸の収益物件管理を経験した後、物流施設に特化したファンドのAM事業部マネージャーとして従事。 現在は(株)高野不動産コンサルティングを設立し、投資家や事業法人に対しての不動産コンサルティングを行う。 / 保有資格 ・公認 不動産コンサルティングマスター ・相続対策専門士 ・宅地建物取引士 ・賃貸不動産経営管理士 など
