不動産コンサルタントの髙野です。
今日は耐用年数切れの、いわゆる築古物件の不動産投資による節税についてです。よく築古アパートは節税に向いてる、という話がありますが、果たして本当にそうなのでしょうか。どうして節税物件として利用できるのか、仕組みと注意点について解説していきます。
耐用年数オーバー物件を使った節税
耐用年数切れ物件を使った節税は主に高所得者など、給与所得が高い人が向いている節税スキームです。単に税金を減らすだけでなく、家賃収入が入ってくる点がポイントです。所得税を抑えつつ、現金は増える、そんな夢みたいな仕組みがあるわけです。ただし、この仕組みは一歩間違えると税金が増えたり、賃貸経営で思わぬトラブルに見舞われることがあります。仕組みをおさえつつ、しっかりリスクも想定した上でこのスキームを利用することが重要です。
そもそも耐用年数オーバーってどんな物件?
不動産には「法定耐用年数」というものがあります。その漢字の通り、「法で定められた建物の耐用年数」です。「建物の」と書いた通り、土地には耐用年数はありません。想像してみてください。土地と建物があったとして、建物は形あるものですから、年数とともに古くなってそのうち建て替え対象になる、建て替えないなら解体される、そう思いますよね。では土地はどうでしょうか。土地は築年数が経過したからといって何か変わるものではありません。
耐用年数というのは、言ってしまうと「建物の寿命」です。そして法定耐用年数というのは実際の寿命とは異なり、構造ごとに「木造なら22年、鉄筋コンクリートなら47年」と、税法上定められている年数ということです。したがって、実際の寿命とは異なります。まずはここをおさえましょう。
どうして節税対策になるのか(減価償却という考え方)
建物には「減価償却」という考え方があります。減価償却とは、償却資産を購入した際に一括ではなく毎年の経費として計上する仕組みのことです。たとえば、土地5,000万円、建物5,000万円のアパートを購入した際、5,000万円の建物分を一括で経費に算入するのではなく、数年間に分けて分割して計上していく仕組みです。
そして「何年で償却するのか」という部分で「耐用年数」という考え方が出てきます。耐用年数とは建物の構造ごとに決まっています。たとえば、木造は22年、RCは47年、といった具合です。通常は法定耐用年数に沿って毎年償却していくのですが、法定耐用年数をオーバーしている建物に関しては違った方法で計上します。
耐用年数オーバーの建物の場合は「法定耐用年数×20%」の年数で減価償却していきます。(端数は切り捨てます。)たとえば、築25年の木造のアパートは法定耐用年数の22年を超過していますので「22年×20%=4.4年」1年未満の端数は切り捨てるので、「償却期間は4年間」となります。
さきほどの例でいえば、建物5,000万円を22年かけて償却すると年間約227万円の減価償却です。しかし4年間で償却できれば、年間1,250万円も償却できるのです。諸々経費を引いたアパート収入が400万円だとすると、1,250万円を損金に算入できるので、その年の利益は「マイナス850万円」となります。
さらに、アパート収入は本業の給与所得と損益通算できるので、年収からアパート事業で出したマイナスを相殺できるので、会計上の収入を引き下げることになり、結果として所得税、住民税の節税となります。
耐用年数オーバー物件の思わぬリスク
耐用年数オーバーの物件を購入することで、本業の収入が高い人は節税効果を得ることができます。一方で、耐用年数オーバー、いわゆる築古物件を購入するにはリスクも存在します。節税効果だけにとらわれてリスクを見落とさないように注意も必要です。
融資がつきにくい
耐用年数オーバーの物件は、物件を購入する際の融資がつきにくい点があります。やはり金融機関は耐用年数をベースに貸出期間を決めるのが基本なので、耐用年数切れの物件は建物の評価がなく、土地としての評価になることが多いです。そのため、土地積算が十分に出る物件でないと金融機関の評価は伸びにくい、ということになります。ただし、これは一般的なアパートローンの話ですから、すでに金融機関との繋がりや取引実績がある、共同担保に入れられる物件がある、といった場合はこの限りではありません。
築古物件ならではの建物リスク
耐用年数オーバーの物件を狙った節税スキームを検討する際に、絶対に見落としてはいけないのが、築古ならではの建物リスクです。そもそも耐用年数が切れているということは築年数が相当経過している物件です。前所有者が適切な管理をしていればいいのですが、そうでない場合、購入した後に様々な箇所でトラブルが発生して多大な修繕費用が必要になるケースがあります。たとえば、雨漏りやシロアリ被害はすぐに対応しないと入居者のクレームになるだけでなく退去が発生しキャッシュフローに影響します。それでいて修繕費用は高額になることが多いので、購入前に事前に修繕履歴を確認することが重要です。また、修繕履歴だけでは分からないこともあるので、売主へのヒアリングや現地確認も欠かせません。
売却時期を逃すと逆効果
耐用年数オーバーの物件を持つことで、保有期間中は減価償却を大きく取れて節税効果が高いです。しかし反対の見方をすればすぐに減価償却が終わるということです。償却期間が終わって、ローンの元金返済額が減価償却額を上回ると、帳簿上利益が出ている状態で所得税が増える可能性が高まります。元金の返済は損金に計上はできませんが実際に出ていくお金です。一般的にはこの状況を「デッドクロス」と呼びます。デッドクロスによる資金繰り悪化を回避するには、デッドグロスを迎える前に売却を検討する、またはそのタイミングで借り換えをする、といった方法が迫られます。
いいタイミングで売却できれば、うまくデッドクロスを回避できます。ただし、売却時期を逃すとデッドクロスにより資金繰りが悪化する可能性があります。割高物件、もしくは問題がある物件を購入してしまうと売却しようにも売れなくなってしまいます。
このように、耐用年数オーバーの物件を購入するのは節税の観点からはメリットが強いですが、肝心の物件選定を見誤ると支払う税金がむしろ多くなり逆効果になったり、いつまでも売れない物件を抱えてしまうことになります。
節税対策として築古物件を購入する際には、必ず信頼できる不動産会社に依頼して目利きをしてもらった上でリスクの低い物件を取得するのが重要です。
それでは本日はここまで。
今日も最後までお読みいただきありがとうございました。
株式会社 髙野不動産コンサルティング 代表取締役 / 不動産会社にて600件以上の仲介、6,000戸の収益物件管理を経験した後、物流施設に特化したファンドのAM事業部マネージャーとして従事。 現在は(株)高野不動産コンサルティングを設立し、投資家や事業法人に対しての不動産コンサルティングを行う。 / 保有資格 ・公認 不動産コンサルティングマスター ・相続対策専門士 ・宅地建物取引士 ・賃貸不動産経営管理士 など